読了「暴力の人類史」上・下
- 作者: スティーブン・ピンカー,幾島幸子,塩原通緒
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2015/01/28
- メディア: 単行本
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- 出版社/メーカー: 青土社
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中世の歴史なんて残酷な処刑・拷問が日常的に行われる世界だったのはご存知の方も多いでしょう。今現代に生きる我々に比べ、数百年前は誰かに殺される確率が数十倍も高いって聞いて、果たして昔は良かったなんて言えるでしょうか。戦争ですら兵器の殺傷能力は向上しており、今も悲惨な殺し合いは続いている、にも関わらず、世界規模で見たときには戦闘での死者数は年々と減少しています。
著者は、人間は本質的には暴力的であり自己防衛や利益を得るためにいとも簡単に他人を殺すその一方で共感や理性といった暴力を減少させるための能力も持ち合わせており、一度そちらを増大させると正のフィードバックがかかりさらに暴力が減少していくと述べます。
またその共感や理性は、例えば小説によって他者の立場に立った視点を習得できるようになったこと、情報の交換で相手が攻撃したいと考えていないことが分かれば互いに攻撃の準備を行う必要性が無くなること、相手から奪うゼロサムゲームではなく通商によるプラスサムゲームが戦争よりも互いに利益をもたらすこと、そして民主主義は戦争となった時に被害をもっとも被る一般市民が主権を持ち得るからこそ、国家間の争いの大きな抑止となること、などが語られます。
私自身は、もともと戦闘とか犯罪史とか処刑方法とか軍事技術とかにそれなりに興味があったのですが(と書くとヤバイ奴っぽいですが)、たとえばフランス革命とかは調べるほどベルばらのような耽美なイメージとはかけ離れた血で血を洗う惨劇の塊です。歴史を知るほど昔は良かったなどは到底思えなかったのですが、この本はその感覚が正しいことを、そして行きつ戻りつにせよ世界はよりよい方向に向かって進んでいることを示してくれる一冊となりました。
なにしろ上下巻合わせて1200ページとかなりの大部の単行本でお値段も張り、前回6月に帰国した際に購入し毎朝15分の通勤バスで3か月かけてようやく読了しましたが、それだけの価値はあった本だと思います。
なお、日本においても犯罪が減っているのは警察省の犯罪白書を読むだけで明らかです。今はネットで公開されているので簡単に閲覧できます。特に若年層の犯罪率は激減しています。たとえば、以下のサイトでも統計データがまとめられています。
http://kangaeru.s59.xrea.com/G-Satujin.htm
ですので、現代で本当にキレやすいのは若者では無く本質的に暴力を是とした時代に青年期を過ごした全共闘世代の方々ではないかと常々考えています。