著作者の権利と宣伝と儲け

ちょっと前に
マンガ・アニメの海賊版から正規版へ誘導する「Manga-Anime Guardians Project」稼働
http://gigazine.net/news/20140730-magp/

韓国、中国など300サイトに削除を要請 海賊版被害580作品 アニメ、出版15社連携
http://sankei.jp.msn.com/entertainments/news/140730/ent14073014550011-n1.htm

とかニュースがありましたが、今現在私が著作権上は無法地帯に近くかつ日本という国を明らかに仮想敵国と見なしている中国という地に在住しているという特殊事情を加味したうえで、ちょこっと雑感。

まず、この経済産業省の行った施策は確実に影響を及ぼしています。だって、実際に中国内やカナダドメインの漫画を勝手にアップロードしていたサイトが閉鎖されたんだもの。なんでそんなところを私が知っているかと言えば、まあ、検索したら簡単に引っかかって見つけられたからなんですが、実際問題として海外駐在していると日本の活字に飢えるところがありまして、こういうサイトはいろんな意味で(後述)有りがたいところなのです。

さて中国は海外書籍の持ち込み数も厳しく制限されていますので、電子書籍の存在はとても便利です。一昔前の海外駐在員へのお土産は日本の新聞だの雑誌だのが定番だったのですが、今現在、自分にはほとんど必要がありません。
Amazon Kindle でも eBook Japan でも、いろいろ購入できます。ネットさまさまです。

自分は昔から漫画が好きで、でもお金が無尽蔵にあるわけでは無いので、やはりそこは雑誌をザッピングしながら目に留まった漫画を何週間か読みすすめ、自分の中で閾値を超えたら購入を始める、というような流れでした。褒められたことじゃないですが、雑誌だってコンビニ立ち読みか本屋店頭立ち読みです。そうでなければBOOK OFFという手もありますね。いずれにせよ、私が幼少の頃に比べて漫画の作品数も、一作品当たりの巻数もべらぼうに多い時代、何らかの方法で広く浅くウォッチしていかなければなかなか面白い作者・作品に出会うことはできません。

あれですよ、周りの評価がまだ低い中で自分が目を付けた作品がだんだん人気が出てくるのは快感でして「ま、俺の漫画を見る目は確かということだな」とかアオイホノオみたいなこと考える自分が後になってとても恥ずかしいのですけど、ま、海外駐在中だとそういうわけにもいかず、かといって片っ端から新しい漫画や雑誌をオンラインで買うわけにもいかず、何しろ電子出版といっても定価がそんなに安いわけではないですしね。

昔の定番の漫画は面白いし安心して購入できるのですが、新作を読む面白さみたいなものは無いし、で悶々としているときにこういうアップロードサイトは新作漫画を探すのに都合が良かったわけですね。こういうサイトは、回線は細いし、中国国内全体ももっと回線が細いし、ときどき「魚釣島は中国の領土だ」みたいな余計なプロパガンダページに無理やり誘導させられたり、何も考えずにスキャンしているからページ順番がぐちゃぐちゃだとか、ページが2ページすっとんでいるとか、スキャン時の変なゴミが入っているとか、細かい文字がつぶれているとか、まあひどいものでしたが、まあ、だいたいは読めました。

さて、私の例はともかく海外においてこのように低品質でも読みたいと考える人たちがそれなりの人数いるということです。それも海外駐在の日本人対象では当然無く、日本語のままのオリジナル版でもいい、漫画を読みたいためにわざわざ日本語を勉強しているコアな現地の方々がいるということです。また、例えば中国の場合、すぐに中国語翻訳版が作られます。わざわざ翻訳して吹き出しのセリフを書き換える手間を行っても、サイトの広告収入で元が取れる程度には人気があるわけです。
また近年中国は豊かになってきたとはいえ、まだまだ給料差は大きいです。我々の500円と彼らの500円では価値が全然違います。いくら正規のサイトに誘導してもお金を払える人は少ないでしょう。気軽にお金を払うようになるまではいったい何年先になるのやら。

また、中国に来て、近代日本文化(オタク文化)がいかに中国に浸透しているのかを日々実感します。車のステッカーにはハローキティだのクレしんだのドラえもんだの、普通に貼っています。小さな子供がビーロボカブタックのおもちゃを抱えて遊んでいました。ウルトラマンのソフビ人形を振り回している子供も多いです。ちょこっとした日本語は、まるで日本が英語をあちこちに使う感覚で町のいたるところで見かけます。ドラゴンボールもワンピースも大人気です。
その一方で、TVでは日本軍が中国を蹂躙する抗日ドラマが毎日のように放送されています。ほとんど暴れん坊将軍のような放送頻度ですね。TVニュースでは「尖閣上空に自衛隊機が領空侵犯してきて攻撃を加えた」とたぶん言っていたと思いますが(字幕を読んだ限りでは。私の中国語読解力は非常に低いので間違っているかも)、日本のニュースとは真逆なことを伝えています。こんなんじゃ反日思想になるのも当たり前です。
だからね、日本を好きになってくれとは言わないけれど、日本という国の実際をもっと知ってもらうための入りやすい入口が必要ですし、漫画・アニメ文化というのはその入口として最適なものの一つと思うわけなのですよ。

で、もう一つ、日本の漫画を読む人口は確実に衰退を始めています。若者の絶対数が少なくなっているというのはあるのですが、さらに「漫画は難しい」として漫画自体を全く読まない人も増えているそうです。漫画表現は確かにどんどん進化しており、漫画を読むテクニック(読解力)が読者にも要求されている、そんな時代なのかもしれません。ただ、いまそんな状態だと、将来はどんどんと漫画をよむ人口が減り、漫画の作者も減り、漫画文化は衰退する一方です。今、間口を広げるために、まず漫画に接する機会を増やさなくてはいけないと考えます。

ということで無償で提供しているアップロードサイトというのは、日本の漫画を広く海外のこれからの消費者につなげ、また同時に日本文化を広く良い方向に宣伝するという役目も担ってきた面があるわけですね。これをこのタイミングで警告を出して閉鎖に追い込んでも、単純に海外での漫画文化が先細りになるだけのことではないでしょうか。
もちろん、著作者の権利を侵害する海賊版を許していいとは思いませんが、かといって低所得で漫画にお金をかけられない=お金を徴取する見込みがないならば、例えば、web閲覧に限り、かつかなりの低解像度で、広告入りまくりで、本家の電子書籍購入へ誘導もする読み放題サイトなら許してもいいと思うのですね。お金があって、ちゃんと読みたい人は改めて買いますよ。
そういうところと本家とで契約を結んで広告代の数十%を著作者にバックするでもいいし(ただこれは、各国に代理店みたいな拠点を構築しないと厳しいか)、本家が低解像度のデータを準備して配布はこれに限る、とした方が良いかも。
このように、ユーザーつまり読者にとっては限りなく無料になるような新しいビジネスモデルを構築しないと、現在の単に海賊版規制を強めて本家で購入してね、のモデルでは将来の顧客をみすみす潰してしまうことにもなるし海外における漫画文化の展開はまだまだ難しいと思う。何よりも日本という国の安全保障も損なっているかもね。

でまあ結論としては、何か新作で面白い漫画ないかなぁ、だな。で、海外駐在者としては、どの作品も即 Kindle 化希望。値段は紙よりももっと安くして欲しいな。今のシステムでは転売も譲渡も難しいし、古本屋に売って新刊売上を邪魔するわけでも無いんだからさ。