書評

 http://d.hatena.ne.jp/tonan/20060312 にて購入物の「メルニボネの皇子」読了。
 前半と後半は,書かれた時期も違うからそりゃまあ当然ながらいろいろと雰囲気も異なるわけではあるものの,いつに書かれたエルリックも純真で一途で成長しなくて愚かで,やっぱりヒーローたるものこうでなくちゃ,ですな。

 というか,これはいわゆる昔からの物語,すなわち最初から最後まで主人公の性格が自己同一性を保ったままの,どんな苦難冒険を乗り越えても変化することのない,おとぎ話の構造を持った世界なのだな,と,いまさらながらに実感。主人公の姿形こそ,それまでのヒロイックファンタジーを覆すものであったとはいえ,正当派の剣と魔法の世界なのだな。

 それにしても,「アリオッホ」はどうも,という感想がweb上で散見されたが,私個人はそれほど違和感は感じない。クトゥルゥ神話に慣れると異世界の魔神たるもの音に出せない音だからこそいいのではないかなぁとも思う。本当の名前を呼んでしまうとこの世に召還されてしまうぞ。
 ただねえ,自身で「アリオック」に聞こえた,とあとがきに書いているんだから,いくら偉大な鏡明センセが「アリオッホ」と書いたとはいえ,自分が聞こえた通りに「アリオック」にすればよかったのにね。