決断と責任と権限と

“4時間早ければ溶融回避” NHKニュース

「資産保護」優先で海水注入遅れる─福島第1原発事故 - WSJ日本版 - jp.WSJ.com

元東電役員で、今回の原発事故対応に加わっている公式諮問機関、日本原子力委員会の尾本彰委員は、東電が海水注入を「ためらったのは、資産を守ろうとしたため」だとしている。尾本氏によると、東電と政府関係者のどちらにも、塩水を使用したくない大きな理由があったという。当初、核燃料棒はまだ冷却水に漬かっていてダメージを受けておらず、同氏によると、「圧力容器に海水を注入すると、容器が二度と使えなくなるため、海水注入をためらったのも無理はない」という。
 東京電力広報担当者は、東電が「施設全体の安全を考えて、適切な海水注入時期を見計らっていた」としている。
 ある政府関係者は、「今回の原発災害は、6割方、人災だ。東電は初期対応を誤った。十円玉を拾おうとして百円玉を落としてしまったようなものだ」と述べている。

いまさら言われなくてもそう思っていたよ。たぶん日本中の多くの人も同じように、ねぇ。とはいえ単に糾弾するだけは誰でもできるけど、所詮答えがわかったあとでの後だしジャンケン。それだとつまらない屑マスコミ並みなのでもう少し書いてみます。

まず重要な点は、海水を注入する=即、廃炉が決定、ということです。廃炉するコストはちょっと調べてみたけれどよくわからない。少なくとも廃炉そのものの費用が1基あたり数百億〜数千億円、そのほかにも本来の設備寿命の限界まで継続して発電する場合に生み出すであろう利益分の損失が加わります。それを1人のまたはごく限られた少人数の決定にゆだねるにはあまりにも重過ぎる桁外れの金額ではないでしょうか。

実は規模があまりにもしょぼいが、自分にも似たような経験があります。
とある事情で生産ラインの運転経験者が一斉にいなくなり、ほとんど経験が無い人たちだけで動かさなければならなくなり、しかも自分がその管理責任者になってしまった時がありました。
なにしろ、ほぼ毎日のように何らかのトラブルが発生しラインがまともに稼動しない。そもそも何故トラブルが発生するのか、原因も、発生している現象すらも判らない。かといってお客のラインを止めるわけにはいかないから、製品は期日までにまともな品質のものを作り続らなければならない。
生産ラインを動かしながら観察していると、様子が刻一刻と変わっていくのは判る。このまま放置していたら、5分もたたずにまた生産停止するのも容易に推測される。でもそれを修正し正常の方向に導くために設備の運転パラメータをどう動かせばいいのか、どのように組み合わせるべきなのかが判らない。

ラインを止めてしまえば、復旧までに半日以上、生産機会損失、顧客の注文の一部はキャンセルまたは遅延で迷惑かけて信用失い商売減るし、遅れをカバーするために航空輸送すれば・・・などなどもろもろで、簡単にん百万が吹っ飛ぶ。でもそれを決めるのは自分の一言。ダイヤルを右にひねろというのか左なのか、ただそれだけ。

もうね、頭フル回転させてほんのわずかでも勝ち目が大きいのはどちらか、もし負けても被害が最小限で済んでリカバーできるはどちらか、自分の知識を総動員して必死で考えましたよ。胃は痛いし心臓は苦しいし、冷や汗は出るし・・・。
たったン百万でこれだから、自分が東電の現場の社員だったとして、果たして桁違いの金額かメルトダウンかという究極の選択を決断できるのかと言われれば、絶対無理!と思うのです。

でも、どんなことでも結局はだれかが最終的に決断しなければなりません。どうすれば迅速に決断できるのでしょうか?
私は権力の委譲が大事と考えます。人選は大事ですが、それなりに的確な判断を行う能力をもった人に、あらかじめ全面的な決定権を与えておくのです。
そして、現場の判断で決定したことは、結果的に間違っていたとしてもそれを責めてはなりません。間違った理由を解析して再度同じ失敗をさせないシステムは必要ですが、個人の能力をとやかく責めるのは筋違いです。

では東電には責任がないといえるのか、についてはNo!と考えます。結局は上記の権限の委譲がきちんと行われていないから現場の判断で行った場合には、責任を現場にかぶせてしまいます。いわくお前が勝手に判断したからこうなったんだ、または判断しなかったからこうなったんだ、責任とれ、と。答えがわかってから言うのは簡単ですよね。そんなことになるのが判っていて、果たしてだれが、わざわざ責任とろうとするでしょう。本来ならば、人選を行った人こそが責任をとるべきであるのに・・・。記者会見の様子をみていても、特に東電上層部は保身に走る傾向が強いように感じます。政府の対応がまずかったのも同じくここ。国が全面的にバックアップするから最善を尽くせ、だけで良かったのに、早い段階でおまえらの責任だと責めるわ、直接現場に口出すわ、上司としては最悪の部類。

もうひとつは、リスク管理が非常にお粗末であるということ。もし重大事故が発生したときは誰がどう決定するべきなのかをあらかじめ決めておくだけで、もっと早く意思決定ができたかもしれませんね。起こり得ない、では無く、もしもそれでも起こったらどうするか、そういった視点がごっそり抜けていたんじゃないのかなぁ。でもそういう危機感は現場に近い所から生まれて来るものだから、結局、組織としてまともに機能していなかったのでしょうね。

いまいちまとまらないが、まあそういうことで。